2011年5月7日土曜日

毒入り食品が世界中を駆け巡る

 2008年に中国で粉ミルクと牛乳に化学物質メラミンが混入し、赤ちゃんが死亡したり重体に陥る事件が起きました。当時、このニュースを聞いてちきりんが思い出したのは、1955年に日本で起こった森永ヒ素ミルク中毒事件でした。

 日本が今の中国より貧しいくらいの経済状態であったころ、森永乳業の粉ミルクにヒ素が混入したのです。この事件のヒ素中毒被害者は1万人以上にのぼり、死亡した赤ちゃんは100人以上、そして多くの子どもに後遺症が残りました。中国の粉ミルク事件より圧倒的に規模が大きな乳児向け食品事故であったわけです。

 中国の事件と森永乳業の事件には違いもあります。それは、森永乳業の粉ミルクがほぼ日本だけで消費されていたのに対し、中国のメラミン混入問題では日本や香港、シンガポールなど多くの国々が輸入していたため国際的な騒ぎになったことです。

 それ以外でも、米国では中国産の原料を使ったペットフードを食べた犬の死亡例が報告されていますし、中南米でも中国製の風邪シロップで死者が出ています。

 いまや世界中が中国製の食品や製品を輸入しており、それに問題があると地球の裏側の国でも健康被害を受けたり、命が危険にさらされたりする可能性があるのです。しかし、その当事者である中国は、この問題を日本やほかの先進国同様に深刻にとらえているでしょうか?

 森永ヒ素ミルク中毒事件が起こった1950?1960年代、日本ではあちこちで公害が起こり、深刻な被害をもたらしていました。しかし当時は、企業の活動を安全?環境面から規制する法律も監督する仕組みもありませんでした。日本で環境庁が設立されたのは1971年です。それは“東京オリンピックの7年後”であったと考えると、今の中国との時間距離が分かりやすいのではないでしょうか。

 中国から日本が食品を輸入するのは、1960年代の日本から2010年の日本に食料輸出が行われている状況と似ているかもしれません。今では使用が許されていない農薬がたっぷりとかかった野菜が輸出されてくる恐れがある、ということです。

 今の中国でも1960年代の日本でも、経済成長が人命より優先されているとまでは言いませんが、そのバランスが2010年の日本と同じであるとは、恐らく言えないでしょう。

●食べ物が世界中を駆け巡る

 ところで、50年前と今とでは、食べ物の流通が大きく変化しています。その1つとして、食べ物が世界中を駆け巡るようになったことが挙げられます。

 食べ物を長距離輸送するには、冷凍コンテナなどの設備や野菜を空輸する技術、虫食いや腐敗を防ぐ薬品など、さまざまなものが必要となります。家電や繊維と異なり、生の食べ物が世界中をこんなに大規模に動き始めたのはここ数十年の話でしょう。

 また、「食品の加工」を行う場所が家庭から工場に、また国内から海外に移り、食品が大規模工場で作られるようになったことも大きな変化です。

 昔は国際流通する食品は、野菜丸ごとや魚丸ごと、肉は切っただけの生肉を冷凍したものでした。それ以上の加工(調理)は家庭で、もしくは国内のごく小さな調理工場で行われていました。ところが今は、この加工プロセスが海外の大規模工場で行われます。

 それらの工場では、異なる国から別々に調達された原材料がベルトコンベアに乗って運ばれ、機械によって洗浄されたりカットされたりします。原材料の1つでも問題があれば全体が汚染されますが、それらの原材料がどこでどのように作られたものか、組み立てメーカー(調理メーカー)がすべてを把握することも難しくなっています。

 食品の流通形態がグローバル化し、大きく変化する中、「そういった事態に衛生面や安全面からどう対応するか?」という方法論が、まだ国際的に確立していないようにも思えます。

 10年ほど前、中国からの輸入野菜の残留農薬が問題になりました。その後、日本の商社や食品メーカーは現地の農場を指導して農薬の日本基準を導入させ、検査も強化しました。また、5年前にはうなぎなど養殖魚に残る抗生物質が問題になりました。その時も日本の輸入元が現地指導をして、日本基準に合わせて育ててもらえるよう改善を指導しました。

 しかし、これではきりがありません。そもそも食料を輸出している国と輸入している国の基準が異なっており、その基準はそれぞれの国の経済状況を反映しています。問題が発覚するごとに個別の対応をとっているだけでは、問題はいつまでも続きます。

 世界の農業議論といえば「自由貿易か保護貿易か」という視点ばかりが注目されがちですが、これからは安全性についても国際的なルール作りが必要でしょう。

 問題はそれをどの国が、また、どういう機関がリーダーシップをもって提案していくか、ということです。各国の農業関係団体や役所が関税問題だけではなく、こういった分野での検討や協調をより強力に進めてくれることを期待したいものです。

 そんじゃーね。

※本記事は、「Chikirinの日記」において、2008年9月23日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。

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引用元:FF11 RMT

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